田んぼと数学テスト(Rice Paddies and Math Tests)

Malcom Gladwellの「Outliers」を読みました。Amazonの社会心理学分野で1位になっているベストセラーですので、読まれた方も多いかもしれません。Outlierとは、統計的には異常値を指しますが、転じて「桁外れなパフォーマンスを出す人」の意味でつかわれます。この本では、ビル・ゲイツやビートルズ、モーツアルトから、トップアスリートなど、一般的に桁外れのパフォーマンスを出す人の要因を、分かりやすい記述と例示により示しており、とても面白いです。

その中の第8章で、田んぼと数学テスト(Rice Paddies and Math Tests)がありました。これは”なぜアジア人が数学スキルが高いのか”を考察しています。事実、国際数学・理科教育調査(TIMSSなどでも、シンガポール、香港、韓国、台湾、日本などが上位にきます。なぜでしょうか?

もちろん諸説あるとは思いますが、Gladwellは稲作の文化との関連性を説明します。東洋は基本的に何百年、何千年にもわたり、米が中心の文化を形成してきました。米作りは他の穀物作りに比べて大きな違いがあります。まず田んぼは、Open Up(切り開く)ものではなくて、Build(作り上げる)もの。固い土の上に柔らからい泥を平坦に延ばし泥田を作ります。また肥料もやり過ぎてはだめ、足りなくてもだめ。水の量も調整が必要です、灌漑設備も必要になります。天候も考慮して作業を進めなければなりません。非常に手間がかかります。西洋の農業は、広大な土地に種をまき、一気に収穫する効率重視型です。そのために作業を効率的に行うマシーナリー(機械)が発達しました。東洋の田んぼはSkill Oriented(スキル重視)型です。ホテルの部屋のような小さな田んぼで、収穫高を上げるために、知恵を絞って工夫をします。そのためには労を惜しまず退屈な作業にも耐えます。

またそのモチベーションも異なります。英語にPeasantという表現があり「小作人」と訳されますが、西洋と東洋ではそのニュアンスが若干異なります。西洋においては、小作人は労働のみを提供する人であり、その人がどのような成果を出しても取り分は変わらないのに対し、東洋での小作人は、基本的にその田んぼのマネージャーです。より良い収穫ができればその分だけ自分の取り分が増えます。そのために頑張ろうというインセンティブが働きます。

数学においても、この退屈な作業に耐えて、喜んでハードワークを行うことが大きな要素になります。GladwellによるとTIMMSのテストの結果とテスト終了後のアンケートへの回答率(アンケート内容ではなく30個の質問にいかにまじめに答えているか)は非常に高い相関があります。もちろんこの回答率が高いのは、シンガポール、香港、韓国、台湾、日本です。

こうして見ると、我々は先人から大きなGiftをもらっていることになります。Skill Orientedな文化のおかげで現在では、米ではなくモノづくりにおいて、大きな経済発展を得ることができたといえます。こうした小さなリソースを上手く活用し、工夫によって生産性を上げていくことは、我々東洋人(日本人)にとって得意なところです。

私は同じことがデータ分析にも言えると考えます。問題点に気づき→データを分析し→現場に浸透させて生産性を上げていくプロセスは、日本のホワイトカラーにとって難しいことではありません。アナリティクスという概念自体は、西洋から入ってきたものかもしれませんが、我々はそれらを上手く活用し、成果を上げることに知恵と忍耐と使うことができます。そのためにも、日本のビジネスマンが今のExcelのように統計・データマイニングツールを当たり前に使える環境や仕組みを作っていきたいですね。実現すればすごく面白そうなイノベーションが起きそうです。これはオープンソースの分析ツールを提供するKSKアナリティクス使命のようにも思います。

 

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